読書メモ – 「読まなくてもいい本」の読書案内

橘玲さん著作、読書メモ3回目です。この本けっこう好きなのでまた読み返しそうです。タイトルがちょっと分かりにくいんですが、内容はわかりやすく面白い本でした。サブタイトル「知の最前線を5日間で探検する」の通りですが、現代では常識とされている考え方を手早く把握できるので、考え事をするためのリテラシーになるというか。ひとりで考え事こじらせる前に読んでおくと良さそうです。

ベルカーブとロングテール

橘さんの書籍ではベルカーブとロングテールの話がよく出てきます。ベルカーブは正規分布、ロングテールはべき分布と呼ばれます。ベルカーブは偏差値などの分布図で確率的な現象を調べる際によく用いられます。ベルカーブとべき分布は分布的に重なる箇所もありますが異なるのは大きなショートヘッドの部分と収束しないロングテールの部分で、このようなべき分布にある突飛な現象はベルカーブで分析しようとしても無理で昔の人たちはこれをうまく説明できませんでした。経済もかつてはベルカーブによって確率的に予想できるとされていたそうですが、今では経済はベルカーブではなくロングテールであり故に予測が困難とされています(リーマンショックによる世界レベルでの破綻が良い例)。

複雑系

複雑系とは、互いのフィードバックによって自己組織化するネットワークの事で、ハブ・スポーク型のネットワークを構成するものです。最も分かりやすいイメージとしては飛行機の路線図があります。株取引も複雑系ですし、人と人の交友関係もハブ・スポーク型になってます。

ちなみにこのハブ・スポーク型の特徴として遠く離れているように見えてもハブを介する事によって短い経路で目的の対象にたどり着く事が出来ることでこれを「複雑系のスモールワールド」と言ったりするそうです。 先ほどのリーマンショックの例で言えば投資銀行は明らかにハブで、ハブに異変が起きると世界が揺らぐような変化が身近に起きてしまいます。

ロングテールを発見したマンデルブロによれば世界は分類すると「決定論(因果論)世界」<「確率的世界」<「複雑系(フラクタル)世界」となっており(右ほど外縁で大きい)実は人が考えるほど決定論的な事象は少ないという事になります。この世界観は役立ちますね。何にでも因果論的な考え方をするのはナンセンスですし同様に確率的に考えられないものを確率で考えようとするのも無理がある。自分が考えている対象がどの世界に属するものなのか整理する上でとても良いです。確率的世界はベルカーブで、複雑系世界はロングテールで分析します。

ちなみにマンデルブロは複雑系の世界は繰り返すフィードバックによってフラクタル構造になっていると言っています。

現代の進化論の考え方

進化論と言えばダーウィンですが、最近進化論はさらに進んできていて経済学などにも応用されているようです。

  1. 生物は「自分の子孫を多く残す」事が至上命題として行動していると考えられていたが、子孫というのは正確ではなくより血縁度の高い自分の遺伝子の複製を残そうとする事が分かってきた。たとえば半倍数性の昆虫は 血縁度が1/2の子供よりも血縁度が 3/4となる姉妹が多く増える事を目的に活動している(自分の子供より姉妹が増えたほうが良い)
  2. すべての生物は利己的な遺伝子の乗り物にすぎないという事が分かる。そして自分の遺伝子の複製を最大化するという対立・協調のゲームをしていて、それはゲーム理論で数学的に記述可能になった。特に人と違って昆虫は原理に忠実に動く分素直に記述できる
  3. 育児を遺伝子のための投資と考えた場合、生態系そのものが投資や市場取引として経済学的に説明できる。進化論が経済の領域ともリンクして考える事が可能になった

生命の仕組みはそれでも人にとって神秘的なものに感じられますが、どのような法則で動いているのかが分かってきているというのはとてもインパクトがある事だと思います。今まで神秘主義で片付けられていたものが「利己的な遺伝子」という観点で説明がつき解明されてきています。思考停止して神秘主義にふけっているのはナンセンスだという事かもしれません。

ヒューリスティックス

ファスト思考とスロー思考があるうち、ファスト思考で結論を出そうとする短絡傾向の事。

行動ゲーム理論は限定合理的な人間を扱う

人の行動はスロー思考的な数学的合理性に基づく場合と、直感に頼るファスト思考的な進化論的合理性に基づく場合があると説明されています。直感的な行動は不合理で数学的には理解しにくいものですが、進化論的な過程を考えると合理性があると考えられます。数学的合理性にこの進化論的合理性を加味して考えるのが行動ゲーム理論です。行動ゲーム理論では、市場のプレイヤーは限定合理的なものと考え学習によって行動を変えていくものとされています。これをどう実際にモデル化して分析するのかは分からないんですが、少なくとも進化論的合理性を予め織り込んでおくというのがミソという事でした。コンピュータでシミュレーションするのかな?

フロイトとトラウマブームの間違い

精神分析というとフロイトが有名ですよね。フロイトの理論の根底にあるのは「人は性的欲望を無意識に抑圧している」というのがベースにありますが、しかしもうこの考えは支持されていないそうです。むしろ誤った認識を広めてしまったところに功罪があり一時期のトラウマブームはその最たるものだとか。

トラウマブームは1980年くらいから1990年後半まであったようです。幼少期の抑圧された記憶が今の自分を苦しめているという事で、当時はアメリカで盛んに成人した娘が父を訴えるという事が多くあったそうです(幼少期に性的虐待を受けた、悪魔崇拝を強要された等)。実際に有罪判決もあったようですが、ただ一方で脳は記憶を捏造しやすいという事も次第に知られるようになります。90年代後半には「抑圧された心的外傷」とはトンデモ心理学にすぎないと学会では考えられるようになりました。今では一時期のトラウマブームの時のような訴訟はかなり減っているそうです。なので、今さらフロイト読む必要はないという話でした。

正義とは娯楽である

脳の画像を撮影すると、復習や報復を考えるときに活性化する部位は快楽を感じる部位と近いそうです。では、なぜそうなったのか?これは進化論的合理性から、復習を考えないようなお人好しが淘汰された結果と考えられています。

正義とは

フランスの国境は「自由」 「平等」 「友愛」を表していますが、これは人の(あるいはチンパンジーにも見られる)生得的な正義の感覚だそうです。この生得的な正義は自由主義=リバタリアニズム、平等主義=リベラリズム、共同体主義=コミュニタリアニズムと呼ばれ、これに生得的ではない功利主義(効用の最大化を重視)が4つ目の立場として存在します。

自由で平等で共同体の絆のあるというように全てを備える社会はなくて、どこかにトレードオフがあるため(自由であれば市場は複雑系なので格差が生まれ平等ではなくなる。個人と共同体両方を尊重するのは矛盾になる等)、それぞれで立場が異なってきます。関係性としてはリバタリアニズムと功利主義は市場経済で繋がりがありネオリベ等と包括されたり、市場経済に反対するという意味でリベラリズムとコミュニタリアニズムに繋がりがあったり相性の良し悪しがあります。ちなみにテクノロジーによって自由な社会を実現しようとするシリコンバレー的な立場をサイバー・リバタリアンと呼んだりもするらしいです。

政治は要するに「みんなのあいだで幸福と不幸(負担)をどう分配するか」という問題を扱っています。リバタリアンは機会平等を求め、リベラルが結果平等を求める。そして機会平等は小さな政府を、結果平等は大きな政府を必要とする、というのが対立の構図になります。